【黒の世界へ浸る】

冬になると,ファッションやインテリアなど、街中に黒色が多くなってくるのは何故でしょうか。気温が下がり、空気が冷えてくると自然と黒い洋服を着たくなります。その方が暖かく感じるからですが、ちょっと気持ちが落ち込むときは、明るい服を着たくなりますね。

黒は「暗い」からです。つまり、「色が無い」。

見た時に色として視覚が認識しているのに、色があったりなかったりする「黒」。

「ブラック企業」や「腹黒い」など、悪い言葉に使われたと思えば、勝負に勝つことを「黒星」と言ったり、オセロのコマの黒は先行と決まっていたり。格上の意味として使うこともあります。いったい「黒」とは、どんな色なのでしょうか?


【黒という色の定義は無限】

あまりにも広く使われる「黒」という色ですが、私たち日本人には非常に身近な色でもあります。髪の色、目の色に生まれつき「黒」を纏っているからです。

同じように、冠婚葬祭などで黒を着るのもテーマカラーとしての認識があります。喪服や留袖、また、就活などでも、揃えたように黒いスーツを着ている映像など、見覚えがあるでしょう。礼儀を重んじる場所では「黒」を着用するのが良いとされているのです。

また、カラーセラピーや風水などでは、黒色は自分を貴く見せたいときに着ると良いとされています。ブラックトルマリンなど、宝石やパワーストーンなどでも、同じ効果を謳われますね。

その一方で、黒は「無」としても扱われます。舞台の中での黒の役割がそれです。

例えば、袖幕や文字幕という舞台を額縁のように見せる幕類はすべて黒が使われています。それは、単なる「枠」としての役割しかなく、存在はしていないことになっています。

同じように、歌舞伎の黒子も存在しないものとして、全身黒で包んでいます。

人の目に見えているにも関わらず、定義としての「無」を表現する時も、黒は使われるのです。


■「黒」とは何か?

本来、黒は「無彩色」と言われています。何故なら、本来、色は光として反射され目に入ってきますが、黒はその光を反射せず、逆にすべての色を吸収し遮断します。

そのことから他の色を目立たせる効果があり、台紙のような役割をするため「無」を表す色と定義されるのでしょう。夜空に星が輝く様を想像すると分かりやすいかもしれませんね。

また、光を吸収するという特質から、映画館や舞台などには黒が使われます。色を引き締めて明るくする効果があるからです。


■両極端なイメージを持つ

「黒」の持つイメージは極端です。ものすごく悪いか、ものすごく良いか、どちらかです。

恐らく曖昧な発色がないからかと思いますが、特に悪いイメージの言葉は多いかもしれません。「ブラック企業」や「黒幕」最近は触れられたくない過去を「黒歴史」などと言いますが、非常にネガティブな感じがするものに良く使われるようです。そこには「闇」と言う、それこそブラックホールのような這い上がれない怖さがあるように感じます。

また、お葬式の喪服や鯨幕(葬儀に使われる白と黒の幕)などの色でもあるので、日本人にとっては特別ネガティブなイメージかもしれません。

しかし、ぶれない色と言う点では良いイメージの言葉にも使われています。

経営利益が上がる「黒字」や柔道の「黒帯」、また裁判官などが身に着ける法服も黒です。

黒には「他の色に染まらない」と言うイメージから、高貴な位の官僚が身に着ける衣服などにも使用されました。

両極端ではありますが、どちらも他に類を見ない強さが感じられるからこその、イメージなのです。


【どんな「黒色」が好きですか?「黒」を表す言葉と意味】

色んなイメージがある「黒」ですが、沢山の言葉に組み合わされています。見ただけでそのものがわかる「黒」を使った言葉をご紹介しましょう。


①「漆黒(しっこく)」

これは読んで字のごとし、「漆を塗ったような艶のある黒」のことを言います。

例えば「漆黒の豊かな髪」と言えば、艶のある綺麗な髪のイメージがありますね。

「漆黒の闇の中で愛する人の手を包む」などと書かれていれば、少し艶っぽい幻想的なイメージになります。漆自体、艶のある黒い釉を塗りますから、そこからのイメージでしょう。逆に「暗黒」となると、同じ黒でも邪悪な感じがしますよね。


②「腹黒い(はらぐろい)

別にお腹が黒色であるわけではありませんが、この場合は、「黒」イコール「悪」と言う意味合いで使われており、「意地が悪い」や「ずるい」と言った意味合いになります。

「あの人のお腹の中が黒く見える」などと言われると、やはり良い人には思えません。

また「あいつは黒です」などと、刑事ドラマで言われると、はっきりと犯人を表したりしますね。


③「紫黒(しこく)、赤黒(あかぐろ)、黒緑(くろみどり)など」

色に深みや濃さが加わることで、黒と漢字を合わせます。

どれも、本来の色よりは濃い色合いを持っており、例えば生地などであれば、折り目に出来る陰などが黒く見えるような濃さを持っています。


④「黒風白雨(こくふうはくう)」

自然現象を表す言葉にも黒は使われています。「黒風白雨」は暴風雨のこと。

「黒風」は強い風のことで、チリや埃が巻き上がる様で、対する「白雨」は、にわか雨のことを指します。色の対比で暴風雨を表しています。


【視覚を紛らす「黒」の技術。「消し幕」と「スポット」】

「黒」の役割は「強い」と言う言葉を表す以外に、視覚の面でも利用されています。

例えば、歌舞伎では「消し幕」と言う小道具がありますが、これは舞台上の役者の姿を「見えないもの」にするために使われる黒い布のことを言います。現代劇では、実際に照明を落としてから、消し幕を使って役者を舞台上から退場させますが、歌舞伎ではこれを様式として「観せる」のです。そのため、消し幕を使う方も力量が必要です。

同じ用途として、「黒衣(黒子ともいう)」も歌舞伎でよく見られる様式で、こちらは全身黒装束をまとった人間が、観えない存在として、舞台上で役者に小道具を渡したり、衣装替えを手伝ったりします。どちらも、「見えない」ものとして「見えている」ことが定義とされているのです。


■黒があるから映える「スポット照明」

お芝居を観たことがある人であれば、大抵「スポット」と言う言葉のイメージがあると思います。ドラマやアニメでも、特別な感情を叫ぶとか、心理的な状態を表す時などに、真っ暗な中に円形のエリアに明かりが当たって、そこに役者が立って、感情を吐露する時などに使用される照明操作です。

これがなぜ「黒」の技術を要するかと言うと、照明を舞台に当てるということは、そこに「黒い闇」が存在しないと効果が無いからです。

そのため、舞台では幕類は全て黒を使います。左右にある袖幕や天井を仕切る天幕、照明エリアを区切るためにある文字幕(もんじまく)など、それらを使って舞台上を全て黒くつぶすのです。そこに一点だけ円形の照明を落とすことによって、特別なエリアができます。黒は光や色を吸収して自身は発色しないため、落とした照明がそのまま映えるのですね。視覚から想像力がわく効果があるので、特別なシーンに使われます。


【世界は「黒」に満ちている】

ただの色であるはずの「黒」は、日常生活に始まって、冠婚葬祭や儀式、エンターテーメントとあらゆる名前や定義にも使用されています。悪いイメージも多くありますが、それらも全て、「壊れない強さ」があるからでしょう。

「無」の性質を持って使用される「黒」ですが、実は全く発光しないわけではなく、色としてもちゃんと存在しています。その存在こそに、すべてを「無」にする強さがあるのです。

黒い服を着こなすには、品格とセンスが必要なくらい気難しい色ですが、私たちの生活をしっかりと支えてくれている頼もしいカラーとも言えるでしょう。






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