My Opera project~オペラ歌手+「α」
Vol.2【初日が開ける日~オペラを上演するまで~①制作編その1】
※ここに記載することは、全て個人的主観であることをご了承ください。
前回、サクッと「オペラとはどんなものなのか」と言うことをお伝えしました。
今回はもう少し具体的に「オペラ公演」について語ってみたいと思います。
実際にオペラ公演を行うにあたり、企画から初日まで、いったいどんな人たちが関わって、どんな作業が行われているのか、最終的に舞台を終演まで引っ張っていく、オペラ歌手も是非知っておくべき事柄です。
前回説明したように、公演はいくつかの重要なポジションで成り立っています。
今回は、オペラ公演を立ち上げるのに必ず必要な、「制作」と言うポジションについてお話しします。
【オペラ公演の要。制作】
ソリストであれ、合唱であれ、一度でもオペラに出演したことがある人は「制作」と言うポジションの人たちと関わったことがあるでしょう。
オペラを上演するにあたり、もっとも根幹を成すポジションが「制作」です。
このポジションはプロデューサーと言う、公演を企画し公演の代表責任を担う人を軸に、公演全体を纏めていく人たちのグループです。その仕事は多岐にわたり、団体や主旨によっても大きく変わるものでもあるので、一概には言えない部分もありますが、公演の要ともなる大切なポジション。実際に、出演依頼が来た時の為にも、その詳細を知ることはオペラ歌手にとって必要なことです。
【制作の代表、プロデューサーとは?】
先にご説明した通り、「制作」部の仕事は多岐にわたります。
代表的な仕事はザっと以下の通り。
①公演企画(期間・劇場等含む)
②予算組・調達(助成金申請等含む)
③スタッフィング・キャスティング
④稽古場管理(スケジューリング)
⑤公演管理(スケジューリング)
⑥各支払い・残務整理
この中で、最初の「公演企画」と言う部分から重要なポジションにあるのが「プロデューサー」です。Wikipediaでは、こんな定義で説明されています。
「プロデューサーとは、映画やテレビ番組・ラジオ番組・映像作品、ポスターや看板などの広告作品、音楽作品等、制作活動の予算調達や管理、スタッフの人事などをつかさどり、制作全体を統括する職務、その現場の責任者を指す。ディレクターよりも広範囲な管理指揮権を有し、制作物の商業的な成否について責任をもつ。」
つまり、公演に関わる全てのことに責任を持つのがプロデューサーの役割り。この人如何で公演の成否を決めることにもなります。
何よりプロデューサーの一番大きな仕事は、企画した公演の予算を組み・調達すると言うこと。
当たり前のことですが、お金が無ければ物事は始まりません。例え素晴らしい企画を起こしたとしても、それにお金が集まらなければ公演は興せません。そこを担うのがプロデューサーの最も力を試される部分です。
●お金をどうやって集めるのか
プロデューサーの手腕を問われる資金調達ですが、その前に、日本ではどういった方法があるのかをご説明しましょう。
商業演劇、映画、ミュージカル等、色んな手段が取られていますが、今回はオペラに限ってご説明していきます。また、一般的な方法であることもご了承ください。
①公的補助金
恐らくこれが一番要となる方法かと思いますが、文化庁が公募する芸術団体向けの補助金を得ることです。藤原歌劇団、二期会オペラ振興会など、大きな団体は年間予算のほとんどをこの補助金で賄っています。
また、アマチュア団体や個人団体などでは、文化庁の他にも、例えば朝日新聞文化財団や野村財団と言った、一般企業が公募する芸術補助金などの制度を活用することが多いでしょう。
②広告
これも、ほとんどの団体が資金集めに利用する方法です。
商業演劇やミュージカルなどは、大きな企業のタイアップを得、広告代や商品の販売などで利益を上げていきます。
例えば、帝国劇場や博品館劇場、宝塚劇場(阪急電鉄)などでは、そもそも企業グループの規模が大きいことから、収益の一部として劇場経営が行われています。
③個人資産
日本ではあまり聴かないかもしれませんが、海外では基本、財閥の支援や寄付によって劇場経営は運営されています。
そもそも、NYのブロードウェイなどは基本的に株のように、資産家が資金を出すのが定番です。
劇場の席数に対し、一席に付き何%かの利益を投資家にバックすると言う方法ですが、例えば700席の劇場でも、ロングランで10年以上、週5日の公演が続けば、バックされる金額は、恐らく投資額をはるかに超えるでしょう。しかし、人気が無く、一週間で幕が降りる場合もあります。ギャンブル性の高い投資として人気があるようです。
どんな投資家を探し当てるのかは、海外のプロデューサーの最も手腕の発揮できるところでしょうが、残念ながら、日本では、「投資」という理念が浸透して織らず、劇場を持たないのも災いして、中々個人資産を予算として集めるのは難しいようです。
●チケット収益について
では、日本の、特にオペラ界ではどうやって予算を組んでいくのか。一般的なのは、「チケット収益」の予想額です。
元々、公演を準備する際に最初に現金が必要なのものは3つくらい。
①劇場代(×日数分)
②稽古場代(×日数分)
③宣伝費:チラシ、チケット印刷代(客席数+)
これが揃えば、稽古まではこぎつけるので、公演に向けて準備ができます。
基本は後払いの世界ですから、ここまでの金額を何かで調達出来たら、後に掛る全てをチケット収益で清算するという方法です。
ただ、チケットが必ず完売するとは限らないので、プール分を含め、他からもお金は調達しなければなりません。
日本の場合、恐らく特にオペラでこの本番までの間にプロデューサーと名前の付いた人が行うことは、「助成金の申請」、「広告を出してくれる企業探し」、「チケット販売」、「寄付を募る」などです。
【劇場システムについて】
ブロードウェイの話を書きましたが、海外ではどの国であっても、「芸術劇場」が存在しています。
言わずもがなの「芸術」に関する専用の劇場です。
そこではオペラ、バレエ、オーケストラの公演が行われ、合唱団、バレリスト、オーケストラ団員、スタッフなど劇場に所属しています。つまり、劇場から給料を頂くと言うことですね。
劇場全体の運営は芸術監督を筆頭に制作部門が行っており、先の資金調達などを行います。
シーズンの演目も芸術監督が決めて、海外招聘者などの交渉も行われます。
日本では、残念ながらこの劇場システムを持っている劇場が存在していません。
唯一、新国立劇場が国の劇場として立ち上がっていますが、それぞれの分野は、外部スタッフ会社や照明会社からの出向となっています。
これはあくまで主観ですが、この劇場システムがきちんと回るような劇場が出来れば、日本のオペラ界は、もう少し発展出来ると思っています。出演者やスタッフが経済的なことを心配せずに、毎日劇場で稽古をし、本番を行う。客が映画を観るように、「今日はオペラにしようか、バレエにしようか」と迷いながら劇場に通う。
そう言うことが出来るのも、土台となる動かない場所があるからです。
今はソフトの方が発展し、ハードが追い付いていないのが、日本の現状だと認識しています。
【まだまだ語りつくせない「制作」の面白さ】
公演を主催するさいに、とにかく一番大変で一番面白いのが「制作」だと思っています。
今回は、公演自体を大きく左右する「プロデューサー」の一番重要な役割、「公演資金の調達」に付いてお伝えしました。
さて、もう少しジックリと「制作」部分を語りたいと思います。
次回は、プロデューサーのもう一つの大きな役割、「公演演目」、「出演者」、「スタッフ」など、公演のソフトを構成していくことに付いて、お話しします。
どうやら長期連載となる気配満載ですが、是非是非、お付き合いくださいませ!
本当にオペラ歌手って、大変で魅力的なお仕事なんですから!
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